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と、小谷はひとり言にしては大きい声で云つた。が、代りがないので又水の中へ放つた。
「何を云うとる。すまじきものは宮仕へ、といふぢやないか」
そんな風におぼえていてくれるとは思ひがけなかつた。
ふいに、彼は頭を上げた。
「いつこちらへお帰りでしたか」
「さあ、一つ拝見しませう」
私は東京にいたころから、一日に三度四度ずつ入浴する習慣だった。しかし、うすい木でつくられた普通の沸し風呂では、冷めるのが早く、たけば熱く、こんな忘我の状態を経験することはできなかった。
と、房一はもう一度感心した。
「なるほどね」
「いや、いや」
その様子が房一に余裕を持たせた。彼は東京の代診時代に覚えた世間慣れた快げな微笑を浮かべることさへできた。
それは、開業当時のあの身体が自然と弾はずんで来るやうな、患者に向ふと必要以上に診察したり、相手が求める以上にくはしい説明を長々と熱心に云つて聞かせたり、忙しげに薬局と診察室の間を往来しながら待つている人達に声をかけたり、さういふ房一の活気にみちた様子が見る人ごとに快い気持を惹き起させた、そんな張り切つた頃にくらべると、今はまるで時間が急にその歩みをとめて、のろのろと動いているやうに感じられた。
「眼が潰つぶれちまふ――ねえ、先生」