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    「さうなんですよ。まあだ帰らないの」

    「いや、わしは出んぞ」と叫んだ。

    「はあ、それは――」

    「おつ!こりあいかん」

    と、案外冷静に云つた。

    と、鬼倉はすつかり他意のない様子で答へた。

    それで安心したやうに引つこんだが、しばらくすると又のぞいた。

    急いであたりさはりのない返事をすると、今泉はもう隣りの人の方を向いて挨拶をした。

    徳次は水際につないである船の所に行き着く前にもう褌ふんどしとシャツ一枚の半裸体になつていた。衣類をくるくると円めて、帯でひつ括くゝるなり、ぽんと手前にはふり出して、いきなりざぶざぶと河の中に入つて行つた。船体を蔽つてあつた帆布をめくりとる、敷板を上げる、ロープを片づける、その後は船体の水洗ひだ。

    「徳さん、君は草履ばきぢやないか」

    「ほゝう!」

    さう声に出してみた。そして犬の方をふりかへつた。犬は彼の方を信頼にみちた眼で見上げ、しなやかな尾を振つた。

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