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と、舌ざはりの悪いものでも口にしたやうな調子で、練吉はぽつんと云つた。
「坑には入つてみたんかね。あすこはもう何年も入つた人がないちふことだが」
「どうも、済んまへんでした」
「もうそんなにおよろしいんですの?すつかり御無沙汰していました。ほんとうに!よくおいでになれましたわねえ」
ふと気づくと、玄関に人が立つていた、半シャツの男だ。瞬間、又来たな、と思つた。
心持照れ臭さげにしながらも、盛子は快活などこか家庭的な確しつかりさといつた風なものを現して、この一日造りの漁師達を眺めた。
「あ、お帰んなさい」
船体を洗ひ終つて、これから雑具にかゝらうとしたときだつた。彼はふと対岸に目をやつた。物音がしたわけでもなければ、気配を感じたのでもない。しかるに、そこの路の曲り角には、まるで符合したやうにその時きらきら光る真新しい自転車に乗つた男が現れたところだつた。
「どうしなさつた」
「うん」
「うん、行くよ。――だが、夕方でいゝだらう」
「へーえ」
と、その稍落ちつきのない女らしい黒瞳くろめがちな眼を道平に向けた。