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「まづい、まづい。酒がまづくなる」
「その姿は見えないのですが……。」
房一の態度が穏かだつたので、相手はいくらか落ちついた。
「私も眠れなくて夜中に一度湯へはいるのですが、なんだか気味が悪るござんしてね。隣の湯へ溪から何かがはいって来るような気がして――」
「さつき、はじめは、はてな、見慣れない男がいるな、と思つたくらいですからな」
「ふむ」
「大石の御老人は見えんやうだな」
気の毒であるから、風呂はわかさなくともいいぜ、と高橋に云うが、彼も私を気の毒がっているらしく、たいておく。親切はありがたいが、気の毒がられるのも、つらい。思うように仕事ができないと、フロたきの人たちに悪いような気持になるので、かえって負担になることがあった。
男は始めにびつくりさせられて、今さう聞くと多少のみこめて来た様子であつた。どこも悪くないと云はれたこともうれしかつたらしい。房一はその腕をひつぱつて顕微鏡の前につれて行き男にのぞかせた。
徳次は急に目くばせをした。
答へながら、彼は紅くなつていた。
「ほゝう!」